2018年の出来事(3)

早池峰山の調査について。

2018年の野外調査の中では比重がとても大きく、数えてみたら、2018年は早池峰山に14回、鶏頭山に4回行っていた。と言っても、山頂まで登ったのはそのうち5回だけで、他は中腹や山麓までだけど。

年度当初の計画ではこんなに何度も行くはずではなかったんだけど、予定外のことが起きた。当初は、環境省レッドリスト改訂のための調査と県のRDB追跡調査を兼ねて、稀少植物(特にイネ科・カヤツリグサ科)の個体数を調べることが中心で、加えて夏に恒例のシカ食痕調査をやるつもりだった。

大きなハプニングは、早池峰に防鹿柵が立ったこと。春を過ぎた頃からなんだか期待が持てそうな感じになってきて、夏には候補地や仕様の検討・提案を行うために現地へ行く機会が増え、いざ柵の設置が決まったら植生モニタリングの仕事も発生し、ついでに自動撮影カメラも付けたら、ほぼ毎週通うことになってしまった。

柵自体は試験的なもので実効性はまだ小さいけれど、「山岳地帯に防鹿柵を立てるとはどういうことか」について、関係者が総出で実際にやってみて理解できた、ということには明確な意義があると思っている。今後の展開のために必要な第一歩だった。ま、シカが山から下りる季節になってから柵を立てても意味がないので、今後は春から立てないといけませんけどね。

そして自動撮影カメラの調査は、やってみたらとても面白かった。これまで早池峰山麓では冬期のカメラ調査はほぼ行われていなかったので、晩秋に山から下ろした自分のカメラを山麓に設置してみた。そしたら期待以上に興味深いデータが取れたので、雪が積もっても続けているところ。植物屋の自分はこれまで積雪期の野外調査をやったことがなく、雪の森を歩くのはとても新鮮。

シカ食痕調査では、恒例の7・8月の調査で高山帯へのシカの進出が増えていることが分かった。ただし、高標高域の食痕はまださほど多くない、という調査結果だった。しかし、10月に小田越六合目にシカが現れたことをきっかけに、登山道からは見えない森林限界付近の林や草原で痕跡探しをしてみたら、予想以上の高密度で見つかり、自分の認識の甘さにゾッとすることに。

というわけで、登山道沿いだけを調査していても実態は全く把握できないということが分かったので、2019年には調査手法を大きく変える予定。高山帯に設置する自動撮影カメラも増やし、正確な実態を把握し、情報を共有できるようにしたい。

一方、RDB調査は目的の半分くらいしか達成できなかった。主な理由は、許認可事務の担当者が2018年度から新人さんに交代していたこと。知っていれば4月に担当者に会いに行って詳しい打ち合わせをしたのに、うかうかしていたので手続きが遅れに遅れ、採集しないときちんと同定できないイネ科カヤツリグサ科の調査が半端になった。まだ被食が少ない今のうちにちゃんと調べておかないとまずいので、できれば再チャレンジしたいけれど、どうかな。

という感じで、早池峰山にトラップされた2018年だった。自分は早池峰山の専属調査員ではないので、ここだけにのめり込むのもまずいと思うけれど、この数年が重大局面であることは確かなので、2019年も通うことになるでしょう。ただし、もっと計画的に。それとやはり、情報を集積し、総合的に計画を立てて実施し、結果を評価するテーブルが必要ということは、しつこく言っていきます。

この重大局面を乗り越えられたら、早池峰山をテーマに展覧会をやりたい。きっと面白いと思う。