エゾタンポポとたぶんオクウスギタンポポと思われるタンポポについて、見つけたけれど保護する必要はないかと。後者は少ないにしろそんなに珍しくはない。でも「今まで見たことがない」と少し興奮しておられる。明日、現地へ行って株をもらってくることにした。

ここからは2005年5月の日誌を一部改変して再掲。
平凡社の「日本の野生植物」図鑑には、白いタンポポはシロバナしか載ってない。キク科の執筆者は北村四郎・大先生。大井本を見ると、白いタンポポはシロバナT. albidumとウスギT. shinanensisが載っている。シロバナは関東以西。ウスギは北日本に分布と書いてある。ウスギは薄黄色しかないと私は思い込んでいた。こっちの人が白いタンポポをウスギと呼ぶのは、大井本に基づいた知識が広まった結果であると考えられる。
1995年のFlora of Japan IIIbで森田先生が日本のタンポポの再整理をしている。その結果、白いタンポポはシロバナalbidumとオクウスギdenudatumとキビシロhideoiになった。キビシロは岡山と九州のもの。大井本でウスギの学名になっているT. shinanensisはエゾの異名とされ、ウスギは消滅した。その辺のいきさつはまだ調べてないのだが、推測するにそもそもshinanensisのタイプは白花ではなかったのではないだろうか。ちなみに岩手県の区界高原で採集され記載された謎のタンポポ「クザカイタンポポ」もエゾの異名とされた。「クザカイ」が実体の分からない怪しい種と言われるのはこのためだ。
過去に東北の人がウスギと呼び習わしていたもののほとんどは、森田論文ではオクウスギに入るだろう。シロバナとオクウスギの違いは、総苞外片の小角突起の大・小や開出・非開出、舌状花冠の長・短や、痩果のconeの長・短、小花の少・多などにある。両方ともn=40。5倍体。単為生殖種。
気になるのは、エゾの白化個体があった場合、どうやってオクウスギと見分けるのかという問題。カンサイ(2n)の白化個体なら、花粉のサイズが均一なので分かるそうだ。しかし、エゾは3n・4n・5nの高次倍数体で、花粉の不均一という点ではオクウスギと変わらないだろう。森田論文で記載形質を比較すると、舌状花冠の長・短くらいしか違いがないように思えるが、外見で見分けられるものだろうか。
しかしタンポポの話はほんとに難しい。関東・関西だと、「在来種は他殖・外来種は単為生殖、だから外来種は広がり易い」という分かりやすいストーリーがまだ使えるが、東北では在来種も単為生殖だ(まれに他殖するらしいが)。そのことも一般の人には知られてない。芝池さんの研究によれば、東北ではエゾと外来種との雑種は雄核単為生殖由来のものしか見つかってない。そのわりにはエゾはどんどん減ってる。外来種の分布拡大に、在来種との増殖速度の違いは関係ないんじゃないかと思える。ハビタットの違いとしか言えないかも。