『サイチョウ 熱帯の森にタネをまく巨鳥』(北村俊平著・東海大学出版会)を買おうと思ってたら、いただいてしまった。副題がかっこいいなー。東京−盛岡で読了。三箇所、脱字を見つけました。
書きぶりに著者の個性がよく表れているような気がする。冷静で抑制が効いていて、しっかりと相対化されている。熱帯林のイメージとは裏腹な淡々とした書きぶりで、大興奮するところがない代わりに、じわっとした面白みがある。コンパクトなのに情報量が多くて、パイオニアではない第2世代の、熱帯林での研究や生活の全体像がよく伝わってくる。エピソードの選択が上手いのかな。ちょっと抑制が効きすぎていて、例えば普通の高校生・大学生がこれを読んでも熱帯林研究に激しく憧れることはないかもしれない、と思わせるほどなんだけれど。
「植物生態学をやっている」と本人が言うとおり、この本も鳥のことを書いているようで、実は樹木のことを書いているんですよね。フェノロジーに長い周期があって、何年も継続して見てみないとどのパターンが「普通」なのか分からない、というところが、やっぱり熱帯の樹木生態ならではの面白さなんじゃないかと思う。この部分と、捕食者・散布者である動物の挙動とがリアルに結びつくと、ストーリーとしてさらに面白いのではないか、と考えさせられました。そんな簡単にはいかないけど、今後に期待。
一番驚いたのが、研究テーマの周辺に関する歴史的・国際的動向と、その中における自分の位置についてのきわめて客観的でコンパクトな記述が随所にあること。特に初めの部分。若手研究者の書いたもので、ここまで相対化されている記述にはなかなか出会えないと思います。これはやっぱり資質なんでしょうか。そこまで見えているなら、このテーマの将来展望について触れてほしい気もしましたが、この本では少しつながりが難しいか。
熱帯の動物に詳しくない人には、よく分からないところが少しだけあって、スイロクって何度も出てくるけどどんな動物なのかとか、アジアゾウはどうして危険なのかとか、そんなの常識なんだろうけど、ちょっとだけ説明してほしかった。本が分厚くなっちゃうから無理か。