そして「カデナ」(池澤夏樹・新潮社)を読了。良かった。
カデナ」は去年の秋に出版された本だが、元は2007年から2008年にかけて連載された小説だ。何が言いたいかっていうと、政権交代より前に書かれたってこと。つまり今のかまびすしい状況とは、もちろん深いところで繋がっているけれど、直接には関係がないのだろう、と私は思う。そうでないと、こういう小説にはならない、と思う。
これはファンタジーだ。池澤夏樹が小説でやろうとしてきたことは、物語を語ること。「カデナ」も、舞台を現実にあった時間と場所に置いているだけで、叙述の方法はほとんど「マシアス・ギリ」と変わらない。ただ、物語を通じて何を伝えたいのかは、もちろんその時によって違うんだろう。
これを読むと、沖縄のことを直接的に考えさせられるというより、アジアの中の沖縄、アジアの中の日本という背景があることを自然に意識する。それも、現代史とか世界情勢とかじゃなく、個人の人生のレベルで。不思議とそこから、今のかまびすしい状況のことも考え直せるような気がしてくる。
「重い題材」とか言っている人がいるけど、じゃあ、こういう人にとっての「軽い題材」って何なんだろう?と思う。人が出会う。それぞれ戦う。守る。時々、事故で死んだりする。愛する。生まれる。普通だよね。