『古書の来歴』(ジェラルディン・ブルックス武田ランダムハウスジャパン)読了。とても面白かった。非常に映像的。かなりの情報量でありながら娯楽的。
「翻訳ミステリー大賞受賞」という帯から、これはミステリなのだと思い込んで読んでいたが、途中でこれはミステリではない、ということが分かる。探偵役である古書の修復家は、古書の染みや傷などから僅かずつその履歴を推測するのだが、手掛かりはひどく限定されており、真相に辿りつく可能性はゼロ。謎解きのカタルシスが初めから回避されている。それはちょっとミステリとは言えないよなあ、と思ったりする。章を追うにつれて、専門家がいかに精密な分析をしようとも、分かることはこんなに僅かだ、ということが、だんだんと浮き彫りになってくる。科学の面白さが伝わると同時に、科学の限界が皮肉な形で示される。でもだからと言ってつまらなくなるわけではなく、そういう皮肉な仕掛けも面白い、と感じさせるのが技なのか。
しかも終盤で驚きの展開。読者を不安にさせておいて、最後にひっくり返してカタルシスを味わわせる。読後は大きな満足感を覚える。うーん上手すぎるなあ。