今回の展示でやりたかったことの一つは、言葉を可能な限り使わずに、直感的・視覚的に概念を伝える努力。パネルを読まなくても、イメージがつかめるような展示ができないかと考えてみた。それなら小学生にもアピールするだろう。私自身が、かなり直感的・視覚的な思考に偏った人間なので、どこまでできるものか試してみたかった。部分的にはたぶん成功したらしい。
もちろん、そんな展示が可能なのは、相当に限られた内容だけ。そのために全体の内容がかなり簡単になった。それで少しバランスを取りたくなって、「進化」という現象について説明してみることにした。どんなに生物系雑学ネタに詳しい人でも、「へえ」と思えるコーナーを一つは作りたいと思って。でも言葉はなるべく使いたくない。できるだけ、論理でなく概念が直感的につかめるように、と思ったので、具体的な系を取り上げることにした。ただし、よく知られている古典的な系(たとえば、ガの工業暗化とか)だと、色々な人に研究されすぎていてかえってややこしい。フォローしきれないし、説明を簡略化すると必ずどこかに事実と異なる記述が含まれてしまう。そこで、フレッシュかつホットな例を紹介することを思いついた。それが、ほそさんのカタツムリvsヘビと、東樹さんのツバキvsゾウムシの研究だったわけです。たまたまどちらも「被食防御の進化」として紹介することが可能です。

んで、やってみて分かったんですが、一対一の系、あるいは三者系は図式化しやすいので、直感的な展示が比較的やりやすい。実際の研究内容は素人には理解困難なものであったとしても、入り口だけは易しそうに見せることができるのです。反対に、種分化という現象を(直接にせよ間接にせよ)扱っている研究を展示するのはものすごく難しい。なぜかというと、展示を見る人が、まず分類学という学問が行っている作業について理解していないと、つまり、名前をつけるという行為に内在する矛盾について、おぼろげにでも理解していないと、本当の意味で入り口に立ったことにはならないからです。生物の名前を紹介するだけで、すでに相当複雑な背景が立ち現れる。さらに、そこから先には集団遺伝学的な概念と系統学的な思考も必要なので、一般の人に対しては、先に説明しなければいけないことが多すぎる。
というわけで、カタツムリvsヘビの系を図式化するのは予想外に困難な作業で、ひとまずすべてを言葉で説明するしかなかった。これから改良を試みます。いわゆる「開幕後も進化する展示」というやつです。