色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹文藝春秋)を読了。
前半3分の1は全く退屈で、それが苦痛でもう読むのを止めようかと思ったほど。会話中の単語にも一つ一つ引っかかるし。でも「巡礼」が始まったら、物語が動き始めたら、一息だった。後はとても良かった。確かに得るべきものがあったと感じた。
主題は、少し直接的すぎるかもしれないと思うほど、明確に書かれている。こんな風に直接的にしか書けないものなのかと思うほど直接的ではあるけれども、そこに辿り着くまでの道筋がしっかり語られているので、説得力は失われていないと思う。
物語上、気になるところはいくつかあるけれど、中篇の長さでは仕方がないかと思う。長く書かれていれば、回収されたであろういくつかのことが放置されている。ただ、それをおいても一番気になるのは、つくる君にとっての沙羅さんの魅力がどこにあるのかが今ひとつ分からないところで、それが感動を限定的なものにしていると思う。あえて書かれていない部分がずいぶんあるけれど、沙羅さんの存在は物語の核心に関わっているので、もうちょっとなんとか。
たぶん様々な年代の人がこれを読むだろうけれど、年代によって受け止めることが大きく違ってくるのではないか、と思った。物語の主人公に近い年代の自分が読んで感じることと、作者の年代の人、あるいは二十歳前後の人が読んで感じることはだいぶ違うだろう。