鳥羽源蔵コレクションの再評価

昨日の日曜講座でも紹介した話。科博の海老原淳さんが、洗浄のために送った鳥羽源蔵採集標本の中から、ヒメカミザサのアイソシンタイプを発見して下さった。しかも、標本を送ってから約1ヶ月しか経っていない時期にである。さすが、分類学者が見てくれると発見が早い、と思った。これをきっかけに、真面目に調べてみようという気になり、まずは文献からすぐに当たれるものを当たってみた。
鳥羽源蔵の書いた植物に関する報文のうち、県博で所蔵しているものを読むと、鳥羽源蔵の標本がタイプになっている種・日本初記録になった種がだいたい分かる。そこで引用された牧野富太郎や小泉源一・本田正次などの論文や報文をネットで拾って読むと、標本の詳細データが分かる。
その標本データを、陸高市博植物標本のデータを入力したリストで検索する。このリストは、当館で入力したものが7千件、標本洗浄のために送り出した先でそれぞれ入力して下さったものが合計4千件。これからまだ増える予定なので暫定版である。
まずは「ハゴロモアオナラ」と「タレハハゴロモアオナラ」というコナラの変種(現在では品種)のアイソシンタイプと思われるものが見つかった。それから、ルリハッカの日本における初採集標本である、と本田正次が書いた標本の重複標本も見つかった。他にも、まだ標本自体は見つかっていないが、おそらくコレクションに含まれているだろうと思われるものが何種かある。また、厄介なので後回しにしてあるけれども、間違いなく含まれていると考えられるのは、小泉秀雄が大量に記載したタンポポ類のシンタイプ。
まだ洗浄作業も続いているし、調査はまだまだこれからだ。全容が把握できるのは2年後くらいだろうか。
地方の小さな博物館にあって専門家の目にふれる機会の少なかった鳥羽源蔵コレクションは、分類学的な検討が不十分な状態にあった。たまたま今回の「標本レスキュー」をきっかけに外に出たために、再評価につながったと言えるだろう。小さな博物館にコレクションを寄贈することについては、id:soishidaさんが最近のエントリーでも書かれていて、その迷いも含めて共感するところが多かった。
こういったことも含めて今回の出来事は、様々な問題を投げかけているように思える。

追記:5月にNHK科学文化部の斉藤さんの取材を受けた時、斉藤さんに「なぜこの標本は貴重なのでしょうか。タイプが含まれているんですか?」と訊かれた。その時には、上記の事はまだ発見されていなかったので、「タイプはありません」と答えた。今なら「あります」と自慢げに言うことができるぞ。